八代目 桂文楽
いつの録音かわからない「船徳」。
これは楽しい。やっているほうはずいぶんと疲れそうな演目だけれど、文楽は若々しく熱演している。日曜の昼下がりに「新生」飲みながら桂文楽。
若旦那がある日「船頭をやる」なんていいだして・・・。うまくいくわきゃあねえんだけども、べつにやるなってこともあるまい。ところがやっぱりそううまくはいかないわな。迷惑なのはそんな船に乗っちまったお客の方。「おい若い衆、大丈夫なのかい?」「大丈夫なわゃあねえや、なんならおまいさん漕いでみろってんだ」云々かんぬん。
たったひとりの噺家による、音だけで聞かせるジャングルクルーズ。すばらしい。その体力。その明確な演じわけ。桂文楽師は「長生きするのも芸のうち」といって、熱心にお医者に診てもらいながら「とはいってもあたしにゃあ高座がありますからねえ」なんてって菓子は食うわ、酒呑むわだったと、弟子の柳家小満ん氏が書いた
『わが師、桂文楽』(平凡社・1996)にある。そこから至言をひく。
師匠は、お刺身によらず何でもおいしいものがあると、ちょっとだけ弟子にも味見させて暮れるのだが、
「おい、手をお出し」
と云って、山葵を巻きつけお下地をつけた一切れのお刺身を、手のひらへのせてくれて、
「味わってお食べよ」
と一言添えるのであった。(中略)
「うまいかい」
「はい」
「うまいと思ったら、それが芸ですよ」(後略)P59-60
さてと、越路吹雪のリサイタルでも聴きますか。うーん、楽しくて日柄のいい日曜日だねえ。