デパートにはオンガクが満ちている。
無造作に、また繊細に鳴らされるそれらは、
たった一人の作曲家が生みだすものよりきっと
力強い。
タイトルのない、さりとてシリアスミュージックとも言い難いその響きは、
笑いと満足に満ち溢れた明るいものだ。
どれを選ぼうか悩む人のココロの中の幸せな呟きや、
フト訪れた迷い人が包まれる暖かさへの感謝や、
今日の売り上げに四苦八苦する販売員の嘆き
それすらも内包して、
デパートの奏でる交響楽は
広い店内に響き渡る。
垂直を斜めに交錯するエスカレータが優しく
激しいグリッサンドを鳴らし、
哀しく上下するエレベータは
マイナーの響きでメロディーを歌うだろう。
無数の停まり、また歩き出す通奏低音。
子供達の笑い声も泣き声もアレグロのトリルとなって華やかだ。
そしてその全てが、
誰も自分こそが作者であると言わない謙虚さにおいて、
過去のどんな作品よりも現代的な優しさをしめし、
交響楽の響きに力強さをあたえるのだ。
2001.2.8