都内某デパート勤務S(三一歳)は中央区月島に向かっている。二〇〇一年の初日の出を見るために。勿論今日も仕事はある、だが行かねばならぬと自分に言い聞かせて愛車フォードのアクセルを踏み込む。ムリに付き合わせた彼女(三〇歳)は助手席で寝ている。もしかしたら目的地についても起きないかもしれない。ここ最近ろくに寝ていないのだ。それでもかまわない、予報は曇りで雨が降るかもなんてことさえいわれていた大晦日。これはオレたちの歴史である。雨でも曇りでも知ったことかそれが生活ってもの、にもかかわらず晴れることに賭けるのだ。結果はもっと大きなオレたちを包み込むものが決めてくれる。さて答えは?二十一世紀の最初の夜明けは勝どき橋の向こうの爛熟せるゴルフボール大の朝日!ミニマム天地創造のような切れ切れの雲。今年は新しい出発が待っているだろう。隣で涙目に光を受けとめている彼女をオレは守らねばならないとSは心に決めた。