「いらっしゃいませェ×2」案内係の女の子が今日も明るい声でご挨拶している。お客様の誰もが彼女達を横目にその門をくぐるのだ。
デパートの巨大な門の前の一人の少女。と、その横で「いらっしゃいませェ」の声に混じりかすかに聞こえるカチッ、カチッという乾いた音。それは少女の隣に立つ緑ジャケの男の手の中から聞こえてくる。
その男は何をしているのか?男は彼女達一人一人のご挨拶の回数を数えているのである。嗚呼、悲しき少女達。男の計量により一日の総挨拶数が五百に満たなかった者から順に小さな上下する箱に送られるのだ。しかし非情なる男はもう一つの目が確かに見ていることを知りはしない。門から少し 離れたところデパート前方おおよそ十mの位置から少女と男の一部始終を第三の男が見ている。少女は泣いているか、いや泣くことなく笑顔を絶やさない。そして計測男もまた笑顔。それを見ている第三の男の目だけがかすかに光るものに濡れているだけだ。