「定常状態ーを越える」べく 「○」と何人かが音楽全般ほかよろず語り下ろし中!! / 「すべての表現するココロに捧ぐ」べくお送りしています つねに更新中!maru1978eonta@gmail.com!
by maru-eo 生きてく日々のメモ
文脈を参照して内容を割り引くことを「批判」と言います。
批判というと日本では攻撃と勘違いされがちですが、違います。 批判とは、隠されていた前提を明るみに出し、前提を取り替えると成り立たなくなることを証明して見せる営みのことを言うのです。 ●○●○●○●○●○● 宮台真司 07年12月22日 カテゴリ
全体 ・Profile ●○オンガク漂流○● イアニス・クセナキス論 ビョークの研究 クラシカルM JAZZ 「Jポップ」を擁護する 一青窈 ・・・ハナミズキ・・・ 文学 日本浪漫派研究 ニッポンの詩人たち 本・映画・芝居 『ジョゼと虎と魚たち』 マンガ・アニメ おいでませ世田谷 1978年のスレッド 雲の写真館 AB型の杜 「TV」をつけなさい 過去の「生きてく日々のメモ」 ▼成長するってこラム▼ 芸能時評 宇多田とUTADA 『星暦2004年物語』 @ネット/コミュニケーション #向井秀徳界隈# 写真のお勉強 加納真実ファン 過去の「生きてく日々のメモ」2 ◆・ダンス・◆ 哲学および宗教的なこと W・A・モーツァルト 柄谷・浅田〈宮台〉東・北田 J・ヒップホップ スポーツ 武満徹 料理 jiroさんのニューヨーク日記 リュウキュウコ 70年代ニッポン つじあやの テレサ・テン 美空ひばり 竹中労 中森明菜 鬼束ちひろ ニッポンのうた 折々の「夜汽車」ソング 落語 桂文楽 フェイ・ウォン 山口百恵 赤江珠緒の会 チャーリー・パーカー アルバート・アイラー レ・ミゼラブル 唱歌・童謡・軍歌 川本真琴 ♪ロッキング タイム♪ 玉置浩二 シイナリンゴ周辺 サザンオール・スターズ ■試聴室■ Coccoのあたりで ACO讃 『メゾン・ド・ヒミコ』 追悼 高田渡 『池袋デパート哀歌』 「くるり」を全部聴く会 タンゴへの旅 『ニッポン人と戦争』 2006年台湾旅行記 YUIを応援します レゲエ・ダヴ なんでも植物図鑑 過去の「生きてく日々のメモ」3 自転車 以前の記事
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本人作詞、かまやつひろし作曲。 全歌詞 これはたぶん70年代初期に作られた曲だと思います。 あの頃の港のにぎわいを思い出してしまって、遠出がしたくなり車にのって、その港へいって、いつもの店のドアを開けたけれどもうだれも振り向かない、あいつもいなかった。という歌。 この行動内容だけみるとよくありがちな演歌とか阿久悠みたいだな、というくらいですけれども、でもリフレインで繰り返される ♪思い出さずには いられなかった ちょうど この港がにぎわってた あの頃のことを というフレーズはちょちと演歌も阿久悠も越えた、切実で強烈なリアリティーをもっていると思われるのですな。 だいたいプロの演歌作詞家たちが書きつづけている、港にいけば、そこここに女がいてという男性の歌、あるいは港で今日もアナタを待っているわという女性の歌は、けっきょく、まずある一定に職業に限定されている、次にその状況や環境を受け入れることを前提としている、という2点で20代とか30代もっといえば団塊の世代くらいまでにはリアリティーがない。わかりよくいうと、閉鎖して閉じているが故に安定している。こうした心性はワカモノには本来ムヨーの長物であります。 それより上の世代の演歌拒否派と団塊の世代を繋ごうとしたのが阿久悠ではないかと思います。 阿久はピンクレディーに代表されるようにSFチックだったり、漫画的な状況を積極的に歌詞に取り入れることで、子どもにも聴くことのできるポップな歌謡曲を生み出しました。で、もうイッコ広く記憶されているのに、大陸的な人間関係とでも呼べそうなモノがあります。ペドロ&カプリシャスの「ジョニーへの伝言」や「五番街のマリーへ」といった曲は、それまでのニッポン歌謡曲が忘れていた歌詞でありました。多民族的・複数職業的な感性が醸し出す開放的な世界観という特徴です。こういうのはじつは戦前とかには結構あったわけで、それは服部良一だとかが曲を書いたものに多く見られるとおもいます。いわば歌い手自身の意志や創作行為からではない、専業作詞家によって選び取られた戦略としての、感性的に閉じないための世界観でした。歌は世につれ・・、というような場合、こうした阿久悠の戦略史というのもかなり面白いと思われるワケですが、それは置いといて。 浅川マキというと、暗い・黒い・重いといった受け入れられ方が一般的だと思いますが、それは一言でアングラチックとか呼ばれますが、その暗いとかといった呼称がネガティブな受け取り方の典型だとするならば、もう一方でジャズを取り入れたり、なかなか本ちゃんのブルーズを歌ったり、ジャズ・ミュージシャンと歌でセッションしたりという先進的な部分にも目を向ける必要があるのではないでしょうか。 いわばもっとスゴイ中島みゆきとか、黒い山崎ハコとかいった見方がいかにも歌謡曲的なものだとするのなら、もっと別の音楽的視点が彼女には適用することもできると。おおむねこうした議論は、そのどちらもが自閉して自足しているような雰囲気があり、なかなか弾まないように思われます。 そうしたとき、たとえばこの「にぎわい」という小品は歌詞の面で彼女の持っているネガティブな部分とポジティブな部分を両方併せ持っていて、聴き手にもわかりやすく示してくれるのではないでしょうか。 曲はムッシュかまやつによるシンプルながらも開放感、気持ちの良いちょっとした投げやりな心意気といったメロディーを持っています。ムッシュには演歌のようなのに歌謡曲という「どうになやるさ」(1970)という同工の作品があります。この曲は学生運動通過後のワカモノに広く受け入れられました。当時売れっ子だった山上路夫による歌詞は ♪見慣れた街の明かり ゆくなとよぶ けれどもおんなじ 暮らしにつかれて どこかにゆきたい どおにかなるさ というどちらかといえば逃避志向のネガティブな終わり方をします。そこにムッシュのメロディーと相まって当時のワカモノたちを慰めたというのはよく分かる話です。フォーク・ソングが根っこのところでもっていたであろうどこかで自閉を目指していそうなミーイズムが、現実社会に疲れて演歌的感性に接近した、そこを山上氏がすくい取ったと、まあおおむねこういう感じで評価されている曲です。 「にぎわい」は「どうにかなるさ」とほぼ同時期に作られた作品ですが、こちらには「逃避」でもなく「慰める」という、どちらかというと気持ちの悪い、表現としての弱さを、拒絶しているところがあるように思います。 この曲は歌い手あるいは音楽家としての浅川マキの時代や世界に対する態度が、くっきりとあらわれているのではないでしょうか。それは聴き手にとって、孤高だとか独自のなどというだけでは、ちょっと頼りない。こうした歌に現れた彼女の表現をもう少し子細に眺めてみるのも有益なのではないかと思われます。 浅川マキはこの曲で「ほんのすこしばかり遠出したくなった」といい「今夜にオレはどこへいくのだろか」と歌い始めます。あくまで、状況は「今夜」の限定であり、どこへいくのかは初めからは決めていない。彼女の車は「いつもの店」へ向かうわけですが、そこにはもう「仲間たち」も「あいつ」もいないことはわかっている。 彼女はそうしたことを分かり切った上で、ということは変わってしまった現状を受け入れた上で、「思い出さずにいられなかった」と歌うわけです。ここには聴き手が直接的に容易に感情移入できない彼女だけの意志と選択と思い出があるように思います。現実をしっかりと認識した上で、それでもなお「思い出さずには“いられなかった”」という強く限定の効いた意志と、「今夜」は「あの頃」へ行くのだという抑制があります。 聴き手は彼女のそうした行為や行動を歌として聴きながら、自分なりの思いや意志を持たざるを得ない。そうしなくて、ただ気の合うみんなで声を合わせて肩を組んで、徒党を組んで歌うというたとえば「どおにかなるさ」を取り巻く状況にはあったであろうような聴き方は許されない強さがあり、歌い手は聴き手にそうした強さを求めている。 なぜ似たような状況にいて浅川マキがこうした歌を歌えたかということは、30年の時を越えてイマでも重要なモンダイをはらんでいると思います。 世代や、仲間意識や、音楽性に絡め取られることのない自分ならではの歌を歌いつづけることは非常にムツカシイことだと思いますが、とりあえず浅川マキの「にぎわい」という一編は、強烈な同化意識をワカモノの多くがもっていた60年代を越えた70年代初頭であってもこうした歌を作り歌っていた。 それを浅川マキというたった一人の歌い手の個性であるとか独自性であるとか、といっているようでは、それもまた浅川マキとそれ以外の人々という一人をダシにした同化意識の現れにすぎないのではないでしょうか。 浅川マキがいるからオレたちゃふつーに稼いで食って、ムカシの曲を聴いて、他人の自己表現に感情移入して、そうしていりゃ「どうにかなるさ」というのでは、あまりにもしょうもない反動ぶりでありましょう。 いま2005年にもしこの「にぎわい」を聴くのであれば、それはきっと浅川マキという歌い手へのかっこうの出会いであるとともに、そうしたニッポンのポップ史の30年を時計の針を大いに戻して考えなくてはならないこととの出会いにもなるのだと思います。 真摯なたった一人の歌い手は、30年以上前のその頃も、いまも、またその頃にしてすでに「あの頃」だった時代も、同じ意志を持ちつづけて歌いつづけているように思うわけです。聴き手が歌い手に何ができるかなんて大仰で過剰な意識は持ちませんが、しかしさも何事もなかったかのように何十年も前の曲を受け入れるというのではあまりにも無節操で、そのムッセソウは、慰めを他人に容易に求めてしまう弱々しいココロモチと隣り合わせでしょう。歌い手やそれ以外の真摯な表現者にそっぽを向かれないように、聴き手もまたつねに聴くという表現をつづけなくてはならないのではないでしょうか。 聴き手のような作り手や、作り手のようでじつはたんなるド級のマニアに囲まれながら聴く浅川マキは一般的なイメージに反してじつにわかりやすい清々しい歌い手であると思われます。 『LIVE』1972.03.05と 『DARKNESS 1』に所収。
by maru-eo
| 2005-10-30 16:16
| 「Jポップ」を擁護する
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