原 研二 (著)
■エマニュエル・シカネーダー一代記
いつもながら舞台を獣が走り回り、気球が飛び、岩山が割れ、エジプトのエキゾチシズムが眼前に広がり、火が舞台を包み、水に舞台が没し、魔法が跳梁し、可憐な恋人たちを仕掛けからくりが翻弄し、何よりもすぐにも覚えられて街中で歌われるようなモーツァルトの可愛い歌があった。 P7
シカネーダーはモーツァルトの最後のオペラ「魔笛」の作者であり、18世紀の劇場主であり、道化の俳優であり、まあようするにそうしたいろいろなものをやって世間を騒がせた興行師。
「魔笛」は意味が分からない戯曲とか、じつはとるに足らない作品だ、モーツァルトの音楽なしには・・・、と言われる。若いカップルが試練を乗り越えて成長する物語を、いまの人々は難解なものや、または転じてわかりやすすぎる物語として見てしまう。
シカネーダーは実際の兵隊を舞台に上げたり、気球を飛ばしたり、それこそ動物を放ったりして、物語を盛り上げた。自分も傑作道化パパゲーノとなって、観客の笑いを読んだ。
いま芝居や演劇は、楽しむにはずいぶんとコムツカシクなった。