こんなに多くの生きものにかこまれているのが、不思議だった。町にいるときはいつも一人、たまにはセンセイと二人、でしかないと思いこんでいた。町には大きな生きものしか住んでいない。そう思っていた。しかし町の中にいるときだって、よくよく注意してみれば多くの生きものに囲まれているのにちがいない。センセイと、わたしと、たった二人なんていうことでは、なかったのだ。居酒屋にいても、いつもセンセイのことしか目に入っていなかった。そこにはサトルさんもいたのである。おおぜいの、顔なじみのお客だっていたのだ。でも、どのひとも、ほんとうに生きているひととして認識していなかった。生きて、自分と同じように雑多な時間を過ごしているのだとは、考えていなかった。P70